シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

地域住民みんなが所有者・経営者の島ーエッグ島(2)

 島民全員が所有者であり、経営者となったエッグ島ではどのような経営が行われているのでしょうか。また島民の人たちはどのような生活をしているのでしょうか。短い間の見聞にすぎませんが、まず後者の状況から見ておきましょう。エッグ島の人口は、訪問時には、島民が所有権をえる前と比較して約20人増えていたそうです。その中には子どもたちや若者たちも含まれていました。私たちの訪問時には、11人の子どもたちが住んでいました。そして人口の30パーセント以上が30才以下の若者たちということでした。

 エッグ島の暮らしはいたって穏やかです。島の人たちを観察していて驚いたことは、働いている姿をあまり見かけないことでした。島にはフェリーの着岸所近くにカフェ・食堂、日常品の販売所、そして観光の土産店が併設されているフェリーターミナルがあります。そこには観光を目的としたフェリーのお客が集まっているのですが、またほとんどの島民の人たちも集まっているのです。

 1日4便のフェリーの到着があるのですが、その度に島の人たちはフェリーターミナルに集まってきます。彼ら、彼女らはそこに集まり、お茶を飲みながら談笑しているのです。若い人たちもいるのですが、見かけたときは、いつも何をするのでもなく、おしゃべりしながら携帯やパソコンをいじっているだけのようなのです。ただ彼ら、彼女らはそこぬけに明るく、つねに笑顔があふれていました。写真を撮らせてほしいとお願いしても気軽に応じてくれるのです。

 生き生きと生きるというと、グローバルに飛び回り活躍しているという人の生き方を思い浮かべてしまいがちですが、ここエッグ島では、親しい人たちが集まり、お茶を飲みながらおしゃべりをし、その日その日を楽しく過ごすということが生き生きと生きるということのようでした。ただ島の人たちはどのようにして自分たちの生計をたてているのでしょうか。どうしてもそのことが気になります。

 エッグ島における経済活動の最大の特徴は、島の所有権を管理する「エッグ島・ヘリテージ・トラスト」はまた島の経済的活動を担う経営体でもあるというところにあります。エッグ島の主要産業と言えば、漁業、農業、そして観光業です。そしてそれらの産業は個人、または家族による経営体によって担われているのですが、すべての経営体は土地を「トラスト」から借りる形で経済活動をしているのです。すなわち、「トラスト」は島の土地のリース会社のようなものなのです。フェリーターミナルにあるカフェ・食堂、ストアー、そしてお土産店もすべて「トラスト」のテナント店なのです。

 「トラスト」の経済活動にかかわる事業はそれだけではありません。一番大きい事業は電力会社の経営です。電力会社と言っても、島内の電力需要を自給するだけのごく小規模の会社にすぎません。会社というより事業所の方がふさわしい呼び名かもしれません。エッグ島では、持続可能な社会づくりのため、小規模の風力、水力、そして太陽光発電という100%再生可能なエネルギーによる電力自給を実現しようとしているのです。そのために発電に関する専門の技術と知識をもった人をご夫婦で招聘しています。

 私たちが訪問したときには、まだ完全には電力自給ができていませんでした。そのため、1日4時間程度、電力供給がストップすることがあるとのことでした。フェリーターミナルの建物の壁に赤と緑の信号が取り付けてあります。はじめそれが何のためにあるのかが分からなかったのですが、電力供給に余裕があるときには緑の信号が、逼迫したときには赤の信号が点灯するのだそうです。すなわちその信号は電力供給の状況を島民に知らせるためのものだったのです。赤信号が点滅したときには、島民はなるべく節電しようと努めるそうです。

 エッグ島における冬の暖房はまきストーブです。燃料となるまきは島の森から伐採してきた木から作られます。「トラスト」はその仕事も請け負っているのです。島の人たちは「トラスト」から土地や建物を借りて自分のやりたい事業を経営するか、「トラスト」が行っている事業に参加し仕事をしていました。意欲のある人は、カフェ・食堂経営、ストアー経営、お土産店経営、肉牛農家・有機野菜栽培農家の経営、そしてB・B経営などに従事しています。観光客への貸自転車業にのりだした人もいました。ちなみにエッグ島の自治会長さんは音楽家なのですが、「トラスト」の電力会社で働いていました。

 エッグ島の社会生活上の理念は自然と共生する生活です。極力二酸化炭素を排出しない生活をめざしているのです。めざすその生活様式は、Big Green Footsstepsと命名されています。そのスローガンは、「減らす、再利用、再生」の3Rです。そのため電力も100パーセント再生可能なエネルギーでした。基本的に車の持ち込みは許されていません。生活上必要な島民に認められているだけでした。ミニバスが島内の交通手段ですが、観光客は料金を支払わなければなりませんが、島民は無料です。また観光客は自分で出したゴミは持ち帰らなければならないことになっていました。

 私たちは電力会社の事務所を何度も訪ねたのですが、事務所で働いている人に一度も会うことができませんでした。きっとフェリーターミナルのカフェでお茶を飲みながらおしゃべりしていた島民のなかに電力会社で働いていた人もいたのでしょう。

 

          竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン