シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

社会的企業のある地域コミュニティ――ケアンドゥ(1)

 スコットランドの近代産業発祥の都市であるグラスゴーから北西の方向に車で約1時間30分のところにあるのがケアンドゥです。その地域コミュニティは汽水湖であるファイン湖の先端部分に位置しています。現在の人口は約170名。ケアンドゥのかつての主要産業は農林漁業の第一次産業でした。それらの衰退によりケアンドゥも人口が減少するコミュニティとなっていました。その人口減少の象徴的な出来事がキルモリッヒ小学校の統廃合による閉校でした。1988年のことです。そのときの学齢児童数は3名だったといいます。しかし、私たちの訪問時にはケアンドゥの学齢児童数は11名に増加していたのです。

 ケアンドゥの人口減少に歯止めをかけ、小学校の学齢児童数の回復に貢献しているのがロッホ・ファイン・オイスターという名の社会的企業です。この企業は1978年に創業され、カキの養殖をしています。創業者は、ジョニー・ノーブルさんとアンディ・レーンさんの二人です。ジョニー・ノーブルさんはケアンドゥの地の大土地所有者でした。その土地には歴史的な貴族館と森林公園もあります。アンディ・レーンさんは生物学者であり、栽培漁業者でもありました。

 ロッホ・ファイン・オイスターの飛躍は、1988年ケアンドゥに直営の産直店とレストランを開業したことに始まりました。この事業が大ヒットしたのです。私たちが訪問したときには、イギリス中に44の直営店をもつまでに発展していました。そして、当時の年商は150万ポンド、当時のレートで日本円にして30憶円を超えていました。この企業の最大の特徴は社会的企業であるというところにあります。その意味するものは日本でいう社会的企業とは違っています。

 「オイスター」は、創業者のジョニー・ノーブルさんが亡くなったときその代表者の席を妹さんが引き継いだのですが、彼女は同社の株式を地元の従業員にも分配し、従業員がそれを購入することで共同の持ち株会社となったのです。訪問時「オイスター」は150人のスタッフ所有の会社となっていました。

 同社で働いている人たちは全部で275人でした。この数はケアンドゥの全住民より多い数です。ケアンドゥの労働力人口は当時104人でした。そのうち67人の方々が「オイスター」で働いていました。また「オイスター」直営のレストラン・直売所目当てに訪れる観光客のための宿泊業・B&Bを営んでいる方が15人いるとのことでした。まさしくケアンドゥの地域経済は「オイスター」によって支えられていると言っても過言ではないのです。それでも足らない働き手は、近隣の、主要には4つのコミュニティから通勤しているとのことでした。

 「オイスター」は、近隣のコミュニティに働き口を提供しているだけでなく、また違った形で地域経済に貢献しています。それは、近隣のコミュニティにも、観光客目当てのレストラン経営を生み出しているのです。それらのお店は、「オイスター」から新鮮な海産物の原材料を得ることでレストラン経営を行っています。私たちもそのひとつのレストランに行ってみました。ガラス張りのステキな構えで、カキ料理を中心とする料理を提供していました。その中には日本料理から学んだメニューもあり、日本人の観光客も訪れているのだなと感じることができました。

 「オイスター」は、また2008年に「環境および企業倫理の認証」を受けています。それを地域住民の人たちや顧客たちに宣言する「ソーシャル・アカウンティング」を導入しています。直営のレストラン・直売所にはその経営哲学を知らせる看板がかかげられていました。その内容を要約するならば、「オイスター」は、地域の自然環境および生物多様性を維持・促進し、コミュニティの経済を支え、そして地域コミュニティの文化的伝統に敬意をはらい、尊重いたしますと謳われています。「オイスター」は文字通りの地域の企業と言えるのではないでしょうか。

 

          竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン