シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

スコットランドの精神風土象徴の地を訪ねて―アイオナ島(2)

 イオナ島の人々は、彼ら、彼女らのキリスト教の4つのルールに従って生きようとしています。アイオナ・コミュニティの生活を律している4つのルールとは、

  • 毎日祈りをささげ聖書を読む
  • お金と時間を含む生活の糧の使用を共有化し、責任を分担する
  • コミュニティで共に時を過ごす
  • 正義と平和、そして神の創造物の高潔さのために行動する

というものです。

 彼ら、彼女らはアイオナ島に宿泊施設を備えた2つのセンターをもっています。またマル島とグラスゴーにも同様のセンターをもっています。そこでは、アイオナ・コミュニティの運営を行うとともに、支援する若者たちとの活動、出版事業などを行っています。支援を受ける若者たちと支援するスタッフは、センターのボランティアのスタッフとして世界中から募集するのです。そのパンフレットによれば、毎年130人以上のボランティア・スタッフが集まってくるそうです。

 世界中から集まったボランティア・スタッフは、短い人で6週間、長い人で3月から11月の期間、アイオナ・コミュニティの人たちと生活を共にします。それらの期間、自分たちの食事を作ったり、島の子どもたちと一緒に遊んだり、アイオナ・コミュニティが経営しているお店やアイオナ修道院での仕事に従事したりします。またアウト・ドアなどのレクリエーションを楽しんだり、各種イベントを自分たちで企画・実施することなどもします。私たちがアイオナ島を訪れたとき、修道院で日本人のスタッフの方に会いました。

 ではそうした活動をしているアイオナ・コミュニティとハイランド地方における地域づくりで女性が活躍していたということとはどのように関係しているのでしょうか。それは、アイオナ・コミュニティの歴史そのものとは女性たちが活躍するようになってきた歴史であり、現在のスコットランド社会における女性活躍を象徴的に示しているということでしょう。

 かつてのスコットランドはパトリオシズム、すなわち家父長的・男性中心的社会でした。現在でもなおそうした性格が色濃いのかもしれません。スコットランド社会の中の女性に関する本をかつて読んだとき、スコットランド女性にとってよい夫に関して次のように書かれていました。ギャンブルをしない、酒を飲まない、そして暴力を振るわないというのがよい夫の条件なのですと。それを読んだとき、いわゆる「三高」と呼ばれている条件を夫のなる人の条件として重視している日本の女性とは大分異なっているのだなと感じたものです。

 そうしたスコットランド社会でアイオナ・コミュニティにおける女性史はどのような展開を遂げてきたのでしょうか。アイオナ・コミュニティで初めて女性の会長となったキャシー・ギャロウェイさんが執筆した『アイオナ・コミュニティのルールに従って生きる』という本で紹介されているその歴史を要約して見ておきたいと思います。その著書によりますと、1938年の設立当初は独身男性だけがメンバーでした。その後妻帯者の会員が増加してきます。ただしそのとき女性は正式のメンバーとはなれず、協力メンバー(准会員)でしかありませんでした。独身のときは父に従い、結婚後は夫に従うというスコットランドのパトリオシズム規範がアイオナ・コミュニティのあり方にも影響を与えていたのです。

 そうした状況を変えていくキッカケとなったのは、貧しい外国の国々への伝道活動でした。その活動に従事した数は、女性が男性を凌いでいたのです。女性会員たちはこの活動を通して男女別の差別性に目覚めていったといいます。その代表的論者がアニー・スマルさんでした。アニーさんはインドで伝道活動をしていました。その活動の中で、アイオナ・コミュニティは平和・平等・民主主義の理念を掲げて活動しているのに、コミュニティ内に男女差別があることはおかしい、それらの理念はコミュニティ内の男女の関係性にも適用されるべきであると論じたのです。

 1968年にアイオナ修道院の修復が完成します。そしてその翌年の1969年に、2名の女性がアイオナ・コミュニティの正式のメンバーとして認められたのです。その後、キャシーさんによれば、アイオナ・コミュニティに革命的な変化が起きていったと言います。正式なメンバーの数が男性を凌ぐようになっていったのです。2002年には、キャシーさんがアイオナ・コミュニティの初の女性会長となりました。キャシーさんは2009年までその会長職を務めています。

 現在スコットランドにおいては、女性が生き生きと活躍している姿が目立っています。スコットランド議会で第一党となっているスコットランド国民党(SNP)の党首は女性です。SNPはスコットランドがイギリスからの独立することをめざしています。またそのスコットランド独立に関する住民投票のための市民運動のリーダーも、イゾベル・リンゼイさんという女性です。

 さらにスコットランドのセント・アンドリュースはゴルフ発祥の地で、世界最古のゴルフ場があります。そこは全英オープンの会場ともなった名門ゴルフ場ですが、最近まで女性は正式な会員資格をもつことができませんでした。しかし、2015年に正式な会員資格をもてるようになったのです。アイオナ・コミュニティの女性が活躍するようになっていった歴史は、まさにそうしたスコットランドにおける女性活躍の現状を象徴するものだったのです。

 

          竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン