シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

地域づくりを支える思想

 これも私事になりますが、自分が学生時代であったときには、社会づくりの思想と言えば、体制選択的、政治的なものであったと思います。それは、資本主義か社会主義か、保守か革新かという選択をめぐる思想ではなかったかと思います。当時は、いわゆる世界的にも政治の季節だったのです。

 現在はというと、とくに地域づくりをめぐっては、人と自然および人と人との関係性や、(ライフスタイルを含めた)個々人の生き方に関わる生活文化的な思想が大きな力となっているように感じます。

 この点でも、宮沢さんの詩や童話から感得される人と自然および人と人との関係性に関わるものをも含めた個々人の生き方に関する思想は、現代の地域づくりのための思想でもあると言えるのではないかと思います。

 岩手県を旅していて驚くのは、いたるところに宮沢さんに関係することばやキャッチフレーズがあふれていることです。それだけ、岩手県の地域性を表現するのに、宮沢さんが貢献しているのだと感じます。銀河鉄道イーハトーブなどはその代表的なものではないかと思います。

 なかには宮沢さんに関係するものと思われる自分たちの地域づくりの思想を示そうとするフレーズもあります。そのときは、このフレーズは宮沢さんに関係しているのではないかと感じたのですが、残念なことにそれをフィールドノートに記すことをしませんでした。だから全く正確ではないものと思います。

 それは、遠野の道の駅を訪れたときのことです。〝人は自然と離れたことで病むことになった〟という趣旨の、警告文とも読める文章が目に飛び込んできました。そのときは、それ以上あまりその文章について、その文章が示そうとした意味について考えようとせずに、遠野市の産物の売り場に急いでしまったのです。

 その道の駅をさったあとになって、もう一度その文章がふと思い出され、もしかしたら、その文章は、自分たちは自然とかかわることで(とくに精神的に)健康に生きていこうとしていますという地域の人たちの宣言文だったのではないかと受け止めたのです。そして、その文章に書かれていた内容と言うのは、遠野の住民の人たちの地域づくり、道の駅づくりの高く掲げられた一つの思想なのではないかとも感じたのです。

 そのことをキッカケとして、各地でくりひろげられている地域づくりは、それぞれどのような思想にもとづいて地域づくりをしているのだろうかということが気になるようになったのです。そしてそのことを探究していくことで、宮沢さんは現代の地域づくりのためにどのような思想的遺産を提供してくれているのかを剔出することができるのではないかとも考えるようになったのです。

 そうした折に、たまたま宮城県富谷市の「とみやど」という「観光交流ステーション」を訪れる機会がありました。そのときは、その施設内にある飲食店に関するチラシを見てランチを食べるためにいったのです。行ってみると、それは単なる飲食店街の施設ではないことが分かりました。

 その施設は、かつての奥州街道のひとつ「富谷宿」に建設されたまさしく「観光交流」のための施設だったのです。とみやどは、「しんまち地区の内ケ崎醤油店跡地」に建設された施設で、2021年5月にオープンしています。

 興味をもったのは、この施設建設と運営の精神的バックボーンとなっているのが、この施設建設に土地を提供した内ケ崎醬油店の当主であった内ケ崎作三郎さんの『人生学』であったということです。それは、内ケ崎作三郎さんの生き方論が、とみやどという観光交流ステーションを核とするこの地区の地域づくりの思想となっていることを示していると思われたのです。

 では、内ケ崎作三郎さんとはどのような人物なのでしょうか、そして彼の『人生学』が説いている思想とはどのようなものなのでしょうか。

 

                  竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン