シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

地域とつながり活躍する高齢の男たち

 日本の自殺問題のひとつの特徴は、高齢者の自殺率が高いということです。ではその背後には何があるのでしょうか。高齢者の「孤独」問題と言われてきました。それはとくに高齢男性で顕著なのです。『世界一孤独な日本のオジサン』の著者岡本純子さんによれば、日本の中高年男性は「世界一寂しい」のだそうです。岡本さんは言います、

 「また、日本は高齢者が世界一不幸な国でもある。多くの国で、人の幸福度は50代で底を打ち、また上がっていく傾向を示しているのに、先進国の中で、日本だけは、右肩上がりに落ちていき、年を取れば取るほど、不幸に感じている人が増えていく」と。

 さらに岡本さんは、「孤独と、人に必要とされていないという感覚は、究極の貧困である」というマザー・テレサのことばを引き、「孤独」は、「ありとあらゆる病気を引き起こす可能性のある最も危険なリスクファクターである」ことを指摘しています。

 『自殺予防』の著者である高橋祥友さんも「高齢者の高率な自殺の背景に『高齢者が孤立する傾向』が」あり、「自殺を容認・肯定する文化、あるいは役に立たなければ生きていく意味がないとする社会」があると論じています。そして、人口減少と高齢化が目立つ地域は「高齢者が孤立する傾向」があることを指摘しています。

 では自殺者ゼロ社会である昭和村の高齢の男性たちはどのような状況にあるのでしょうか。昭和村は高齢者が地域社会を支え、活躍している社会なのではないでしょうか。高齢になってお金を稼ぐための労働からリタイアした後でも、昭和村の高齢の男性たちは、日常の地域生活にとって欠かせない集落の仕事や村や集落行事、そして集落の仲間たちによるゲートボールやお茶のみ会などの交流を通して、社会や人との豊かなつながりをもっているのです。野尻集落の方々との懇談の中で、ゲートボールは「対話の場」となっていることを知りました。また、日常的に誰かの家で開催されるお茶のみ会という昭和村の生活文化は、冬の時期長い間雪に閉じ込められ孤立した生活を強いられてきた環境の中でも生活をエンジョイするための生活の知恵だったのではないでしょうか。

 2017と2018年の2年にわたってフィールドワークの授業の受け入れをしていただいた野尻集落には、集落の世帯全部がそのメンバーとなっているむら仕事を実施する「結くらぶ」という組織があります。水路や集落の公共施設の維持・管理や道路やあぜ道の草刈りなどがむら仕事の主な内容です。野尻集落には、この「結くらぶ」の有志の方々によって、集落の耕作放棄地の活用を図る営農生産組合が組織されていました。耕作放棄地となった耕地に菜の花栽培をすることで、春になると菜の花畑の美しい風景を創り出していたとのことでした。その風景は野尻集落を通過する人たちの目を楽しませていたのではないでしょうか。

 むら仕事というと現代では人の自由を拘束する強制的な義務的仕事と受け取られるかもしれません。しかし、これは個人的な感想になりますが、「結くらぶ」の人々はむら仕事を楽しんでいるように見えました。例えば、営農生産組合は条件の悪い休耕田を活用してビオトープを作るなどの活動をしていました。野尻集落には、これまで紹介してきたもの以外にも、むら仕事や交流のための団体として、「消防隊」、「普請防火隊」、「老人くらぶ」、「長寿会」などが組織されているといいます。ある高齢の男性に、「男ひとりでの生活は寂しくないですか?」と質問したところ、「毎日忙しくて寂しさを感じている暇がない」、「自分は3か所お茶のみ会の場がある」と話してくれました。

 

     竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン