シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

自殺者ゼロ社会・昭和村に出会う

  まだ実際にフィールドワークの旅に出る準備ができていません。そこで、まず学生とともにフィールドワークで出会った社会とその社会に生きている方々を紹介していくことから始めることにします。最初に福島県の昭和村を紹介したいと思います。昭和村は、大学時代にフィールドワークの授業で受け入れていただいていた村です。2018年度のフィールドワークの際、昭和村の地域づくりのためのNPO法人苧麻倶楽部の和泉朋子さんからフィールドワークのテーマを「昭和村はなぜ自殺者がゼロなのか」にしませんかという提案を受けました。私はそのときはじめて私たちが長年フィールドワークをしていた昭和村が自殺者ゼロの村(和泉さんからいただいた資料では、2010年から2013年までの4年間ゼロとなっていました)であることを知りました。

 昭和村は、福島県会津地方(通称「奥会津」)のほぼ中央に位置する農山村です。人口は約1300人(2015年)の小さな村です。そうした小さな自治体の例にもれず、若者の人口流出と少子高齢化による過疎高齢地域となっています。また、兵站部でも標高が4~700メートルある高冷地となっているため、福島県でも屈指の豪雪地域です。そのため約半年間は雪に閉じ込められた生活を余儀なくされるといいます。

 こうした厳しい自然および社会条件であることを踏まえ、昭和村が自殺者ゼロであることに関して社会学を学ぶ者にとってとても示唆に富む問題提起をしてくれました。その和泉さんの問題提起は、社会の個人の生き方に与える影響の大きさを示すことができる重要な提起であると考え、ここに再掲載させていただこうと思います(私たちのフィールドワークの報告書でも掲載させていただいております)。

 和泉さんは、まず、自殺と地域社会の在り方に関しこれまでどのような分析がされてきたかに関して、ある文献の次のような記述を紹介しています。

 

 「自殺希少地域の多くは、傾斜の弱い平坦な土地で、コミュニティが密集しており、気候の温暖な海沿いの地域に属していると-解釈できる。」

 「自殺者多発地域の特徴は、この逆である。険しい山間部の過疎状態にあるコミュニティで年間を通して気温が低く、冬季に雪が積もる地域に多いという傾向があるのだ。」

 

 この記述の指摘を受け、和泉さんは次のように問題提起します。

 「この結論はとても妥当だし説得力も充分あります。でも、昭和村が県内でも飛び抜けて自殺率が低いという事を説明することができず、寧ろ、(参照した文献)のこの結論にあらがうように自殺率が低い昭和村の特異さを掘り起こすことができれば、戦国時代や江戸時代に戻ってその社会の成り立ちからやり直さなくても、『自殺率の低い=生き心地の良い地域』を形成する要素を特定できるかもしれないと思われました」[( )内は引用者による。]と。

 

 和泉さんの問題提起にもあるように社会学的に見ても自殺者ゼロの昭和村は奇跡の村と呼べる社会と言えます。なぜならば、社会学的に見て、アノミーと経済的・社会的格差が進展し、個人科的生活様式の深まりで人間関係における無縁化と孤立化が深まる現代社会とは自殺者が生まれやすい社会だからです。

 

      竹富島・白いシーサー・ジャンのいちファン