シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

スコットランドという「国」柄

 スコットランドは日本の地方制度に即して言えば、イギリスの北の「周辺地域」に位置している一地方です。かつては一つの独立王国でしたが、1707年にイングランドに従属的に組み込まれイギリスの一地方となったのです。日本の歴史でも、北海道や沖縄県は日本の近代国家形成に伴って従属的に組み込まれて現在に至っています。その点で、イギリスにおけるスコットランドと国との関係性は、日本における北海道や沖縄県の国との関係性と共通する性格をもっているのではないでしょうか。

 面積は約79,000平方キロ、人口約520万人と、大きさから言えば北海道とほぼ同じ規模の社会です。ただ国との関係性において、日本における北海道や沖縄県と決定的に異なるのは、スコットランドは、社会制度において、イギリスへの統合後も宗教・教育・貨幣制度など文化や社会制度の面で独自性を保持してきていることです。例えば、スコットランド銀行イングランド銀行が発行する紙幣とは異なる紙幣を発行し、流通させているのです。ポンドという貨幣単位の名称は同じなのですが、スコットランドイングランド銀行発行の紙幣を使用するには少し躊躇し、緊張します。

 スコットランドは、またローランドとハイランドの二つの地域に区分されます。そのうちハイランドはかつてケルト民族の人たちが住んでいた地域で、言語も英語ではなくゲール語なのです。そのため現在でも、ハイランドにおいてはゲール語が英語と並んで公用語になっています。例えば列車の旅をすると、列車が停車する駅の駅名はそれら二つの言語による二重表記になっているのです。

 歴史的にはそれら二つの地域間の関係性は支配従属関係にありました。日本でも沖縄県は国家との関係性において沖縄県は従属的な位置にありましたが、かつて独立王国であったときには、沖縄の本島地域と石垣を中心とする八重山地方との間は支配従属的関係だったのです。現在でもその当時の関係意識が八重山地方の住民の方々の中にしこりのような形で残っているように思えます。

 ローランドとハイランドの間には、やはり地域間格差が存在しています。ローランドはスコットランドの「首都」であるエジンバラ産業革命の発祥都市であり近代化された世界的産業都市として世界史的にも名をはせたグラスゴーの二大都市を有しています。それに対し、ハイランドは、スコットランドの北の「周辺地域」とも呼べる地域で、山岳的地形の地域と多くの離島から成っている地域なのです。また面積的にはハイランドはローランドよりもはるかに広大な地域なのですが、2010年現在の人口は約45万人とスコットランド全体の人口の9%にも満たない割合となっています。

 私たちはイギリスの北方の遠隔地であるスコットランドの、さらに北方の僻遠の地であるハイランドの地域生活と地域再生の動きを見聞する旅に出たのです。日本人にとってスコットランドと言えば、バグパイプ、男性の正装がスカートのようになっているキルト衣装、そしてスコッチウイスキーを思い浮かべるのではないでしょうか。北海道の人であれば、余市ニッカウヰスキー創始者である‘まっさん’がウイスキー製造の修行に行った地を想像するかも知れません。それらの生活文化は、実はすべてハイランド地方が発祥の地となっているものなのです。

 また忘れてならないのは、スコットランドラグビーやサッカーの強豪チームを輩出しています。昨年日本中を興奮させたラグビーのワールドカップでは、スコットランドは常に日本チームの強敵として日本チームに対する大きな壁として立ちはだかってきました。昨年のワールドカップでもスコットランド戦に勝利することを願った人も多かったのではないでしょうか。

 地域社会の在り方を社会学の目で観察してみて興味・関心が魅かれることは、これまで紹介してきたこととはさらに別の姿になりますが、どんな僻遠の地を訪ねてもそこには子どもや若者の姿が見られることと、地域づくりの担い手として女性たちが活躍している姿に出会ったことです。日本ではとくに若者たちの人口流出が激しく過疎化している地域では子どもや若者たちの姿が消えてしまった地域を数多く見てきました。

 過疎化が進み65歳以上になった人の人口が5割を超えた地域社会を、近い将来消滅する危機にある地域社会として「限界集落」と呼ばれています。とくにそうした「限界集落」では子どもや若者たちの姿が消えてしまっているのです。ではなぜスコットランドでは僻遠の地においても子どもや若者たちの姿が残っているのでしょうか。またスコットランドにおける地域づくりにはどのような特徴があるのでしょうか。スコットランドの僻遠の地に位置しているハイランドを訪ねそうした疑問に対する答えを見つけ出していこうと思いました。

 

          竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン