シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

コミュニティビジネスへの挑戦

 インタビュー時、小村さんは地域農業の「担い手育成」を目指すコミュニティビジネスにも挑戦しようとしていました。小村さんは、地域の現状として、乱開発が進んでいること(小村さんが暮らしている野底は、伊原間から川平までの風光明媚な路線に位置しています。この路線は、伊土名ビーチや米原ビーチ、そして石垣島一の観光地である川平に通じているのです。そのため当時急増していた観光客や移住希望者のための開発が進んでいた地域となっていました。)、しかし一方では、雇用の場が少ないことで人口が減少していることへの危惧を感じていたといいます。

 同時に、小村さんは、「県内外からの新規農業希望者が増加傾向にある」ことを感じ取ってもいました。まさしく小村さんご夫婦がそうだったように。しかし、現実には、希望者が実際就農し、定着していくことが難しい状況であったといいます。それは、希望者の営農に関する考えがさまざまであることと受け入れ態勢が必ずしも十分ではないために、就農の厳しさだけを感じて諦めるケースが後を絶たなかったのが実情だったからです。小村さんご夫婦も多くの困難と試練を何とか乗り越え、就農を果たしていたのです。

 そこで、小村さんは、新規就農希望者の民間農家による受け入れ、育成の仕組みを提案しようとしていたのです。「人材を見出し、育成指導により新規農業希望者を“担い手”として導く手伝いが出来る試みを考え」ているとのことでした。

 小村さんご夫婦のマンゴー農園の名前は「Patio石垣島」といいます。実はこの名称には小村さんの思いが込められていたのです。それはPatioという名称の理念でもあります。すなわち、PはPioneer(先駆者)を意味しています。aはagriculture(農業)、tはlive close together(共生する)のtogetherの頭文字、iはing(進行形)、そしてoはoasis(くつろぎの場)を示しているのだそうです。そうした意味をもつPatioという名称に、新規就農希望者の民間農家受け入れのための事務局を引き受けようという小村さんの意気込みを感じることができます。

 新規就農希望者が実際に農業を体験するための耕地提供者も栄集落内に確保していました。農業技術や経営の指導などは行政に依頼することを計画していました。さらに、就農希望者を集落全体で受け入れ、支えようと考えていたのです。小村さんは、常々、自分たちは多くの人に助けられ、支えられてマンゴー農園を経営することができるようになったのだと言っています。そうした小村さんが、今度は八重山地方で新規に農業を目指す方々を支える役割を引き受けようとされているのだなと、お話を伺いながら感じました。この挑戦をぜひ実現させてほしいと願ったのです。

 繰り返しになりますが、私たちが生きている現代社会は個人化が徹底してしまっている社会です。その意味することは極端に言えば、どんなに個人に責任がなくても、個人にふりかかった困難や苦悩は誰からも気にかけてもらえず、社会的に放置され、自分だけの力で切り抜けるか、乗り越えていなかければならないということなのです。そうした状況を、社会学的には、人はお互いに支え支えられる社会的存在であるという性質を現代社会では失ってしまっていると理解します。小村さんの八重山地方への移住物語は、しかし、そうした現代社会の中にあっても、人が社会的存在であることを示すことができることを示唆してくれているように思えてなりません。

 

     竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン