シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

姫島村の地域づくり(2)

 姫島村の高齢者福祉を支えているのは、保険・福祉・医療・介護等の総合的全人的ケアを目指している、診療所を中核とした地域包括医療・ケア体制です。その体制を、『姫島 その歴史と文化(増補改訂)』の著者である高橋さんは、その著書の中で次のように紹介していました。

 「現在、地域包括医療・ケアシステムの成果で、高齢者の医療費は県内で一番低く、ずっと島で暮らしたいという村民が多い」のですと。

 そうした姫島村の地域包括医療・ケアの体制を中心となって担っているのが医師の三浦源太さんです。以前にも参照したライターの斎藤さんは、次のように紹介していました。医師の三浦さんは、「姫島村国民健康保険診療所所長、姫島村健康推進課課長、姫島村地域包括支援センター所長という三つの顔をもち、藤本村長のよき理解者でもある」のですと。このように姫島村においては、医療と行政の連携と協力の体制が築かれているのです。それを体現しているのが三浦医師であると言えるのではないでしょうか。

 ここまで紹介してきた姫島村の医療体制を見ていると、乳幼児医療費無料と乳幼児の年間の死亡者ゼロという快挙を成し遂げた岩手県沢内村の医療行政物語を思い出します。一般的に言えば、人口が急減している過疎地は医療過疎の地でもあります。常勤の医師一人を確保することが難しい地域が数多く存在しています。そうした地域医療の現状の中で姫島村の医療体制づくりには注目すべきものであるのではないでしょうか。

 そこでさらに斎藤さんの姫島村の医療体制に関する記事を参照しておきたいと思います。姫島村の診療所体制は、所長である三浦医師の「他に常勤の医師二名、歯科医師一名、看護師一三名、理学療法士二名、……さらに、小児科は月に一回、姫島での勤務経験があり、患者にとって顔なじみの心強い医師がやってくる。眼科診療の医師や循環器・心臓超音波検査の医師も月一回来島する」というのです。斎藤さんがその体制を「小さな村の医療体制としては、稀有な存在といってもよいのではないか」と評価するのもうなずけます。

 また斎藤さんは、所長である三浦医師の診療の基本姿勢に関する次のような話を紹介しています。「私たちは、掛かりつけ医の機能を果たしているわけです。敷居が低い病院でありたいと思っていて、専門外の患者であっても必ず診療しています」と。

 姫島村の地域づくりにおいては、生活環境の改善と保全についても早くから意識的に取り組まれてきました。その代表的施策が空き缶のデポジット制度です。『姫島の歴史~ロマンあふれる島への誘(いざな)い~』の著者である木野村さんによれば、このデポジット制度は、「昭和五十九年(一九八四)に『空き缶の散乱防止』を目的に始められた制度」なのです。

 「この制度の仕組みは、飲料販売店で販売する缶飲料にデポジット識別シールを貼り付け、通常の小売り価格に十円の『預かり金』を上乗せして販売する。この『預かり金』は消費者が飲み終わったらその空き缶を販売店に持参すれば、その場で十円を返してくれる」というものです。そしてこの制度の特質すべきことはその回収率の高さです。平均で90パーセント以上の回収率を記録してきたのだそうです。そのことにも姫島村における住民の方々の地域社会への関心の持ち方が示されているように感じました。すなわち自分たちの地域の生活環境をよくすることに協力しようとする気持ちが回収率の高さに現れていると言えるのではないでしょうか。

 これまで見てきたように姫島村における地域づくりは行政がイニシアティブをとり、島の人々の生活を支えるための仕組みと体制づくりという姿をとってきたのです。島民の命と健康を守ることから日常の生活環境の改善・保全の仕組みまでそれは及んでいたのです。

 

          竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン