シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

商店街が学生活動を支援し学生を育てる

 大麻座商店街と出会い、商店街を舞台として大学の授業をしてみようという私の試みは、決して目新しく、先駆け的な試みではありません。全国的にはかなり前から試みられてきていたものです。

 大麻座商店街で授業を行うようになってから手にした本の中に、『商店街は学びのキャンパス』がありました。これは、関西学院大学総合政策学部片寄俊秀さんが著した本です。片寄さんは、この本の中で、兵庫県三田市本町センター街商店街を舞台に取り組まれた、「まちかど研究室・ほんまちラボ」の試みを紹介しています。そして、この試みがスタートしたのが、1997年6月1日のことでした。

 また、全国的には、大学ぐるみで立地している地域社会を舞台に授業と学生を育てるさまざまな試みをしている例として、長野県松本市松本大学が有名でした。そしてなによりも大麻座商店街自身が、市内の大学生を受け入れ、育てるとともに、商店街を元気にしていこうとする試みを実践していたのです。

 2015年に、大麻座商店街の事業を紹介するため、『創造商店街』という冊子が発行されています。それは『大麻座商店街SIR事業報告書』です。SIR事業とは、Student In Residence、すなわち大学生が大麻座商店街に住み込んで活動するのを支援する商店街の事業でした。冊子の表表紙に発行の目的が次のように記載されています。

 「この場所がだれかの創造性を受けとめることでずっとこれからも変わらず商店街から常に新しい価値を提案していくために」と。

 私がこの冊子を手にしたときには、この事業から「まごプロジェクト」という学生の活動が生まれていました。それは、江別市酪農学園大学の学生さんたちが始めた活動です。商店街に住み込み、高齢化している地域のお年寄りの日常生活を援助しようとしたのです。

 具体的には、冬季、高齢者にとっては非常につらい家回りの雪かき作業を学生たちが代わって行ってあげるというものでした。雪かきをしてもらったお年寄りは、そのお礼として食事を提供することになっていました。このプロジェクトでは雪かきを通した学生と高齢者との交流が生まれていたのです。

 そのプロジェクトに当時の私のゼミの学生のひとりが参加することになったのです。キッカケは、江別市が主催したイベントでその学生が「まごプロジェクト」のリーダーの学生さんと知り合いになったことでした。そして、プロジェクトにも加わることになったのです。

 プロジェクトに参加した学生が話してくれました。プロジェクトに参加してことで多くの貴重な体験をすることができましたと。プロジェクトを通して、他大学の学生さんと協力・協働してひとつの事業を実行したこと自体貴重な体験だったことは言うまでもありません。

 さらに、プロジェクトを通して、さまざまな人たちとの出会いと交流があったのです。プロジェクトの支援対象者である地域の高齢者たち、プロジェクトを支えてくれていた大麻座商店街の方たち、そしてすでに就職し会社で働いている勤め人の方たちなどと出会い交流したそうです。プロジェクトに参加したゼミの学生によると、それらの出会いと交流は非常によい経験となったということでした。とくに大学を卒業・就職し働くという自分の将来に関して参考になる情報を得、話を聴くことができたことが「ためになった」そうです。それらのお陰もあってか、彼は、就職氷河期と言われていた厳しい状況の中の就職活動を無事のりきり希望の会社に就職することができました。今もそこで生き生きと活躍していることを心から祈るばかりです。

 そして、このゼミ生の経験は、私にとっても大切な経験となりました。それは、自分が関心をもつことのできる活動をともに協力・協働しながら実行する仲間と出会い、交流することで学生が成長し、育っていくということを、理屈ではなく、実感することができたことです。とくに地域とかかわる活動の場合、活動をともに実行する仲間だけでなく、関係する地域の方々との出会いと交流も生まれ、さらにその方々からの支えや励ましも受けられるのです。そうしたことが社会で生きる力を育ててくれるのではないかと確信をもつことができたように思います。

 社会の中で生きる力を地域の方々の力をお借りして学生を育てる。地域の方々が学生を育ててくれる。私は、これまで以上に、そうした力を貸していただける地域を見つけ出し、学生がそうした方々に出会うことのできる機会を学生に提供することに徹することを自分の役割であるとの姿勢で授業を行うようになっていきました。

 

     竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン