シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

大麻銀座商店街でのフィールドワーク実践の試み

 従来の社会学における地域社会を舞台とするフィールドワークは社会学研究法の一環として社会調査を実施するものでした。そのための準備作業として、大学の教室で、まず、社会調査とは何か、社会調査の歴史や技法などについて学びます。そして、社会調査の実習として、これもまえもって教室で調査票や質問事項票などを準備し、調査対象となる地域へ出かけて行くのです。

 調査に協力し、応じていただく個人や家族、集団や団体、そして機関などには調査の趣旨と協力をお願いする手紙などを送っています。それら調査の対象となる個人や集団、そして団体を調査の目的に即して選ぶ作業をサンプリングの作業と呼んでいます。

 そうした社会調査においては、調査する側と調査される側との関係は、調査者と調査対象者という関係です。そして、その関係性においては、社会調査とは、調査者が自分たちの調査目的にかなう情報を調査対象者からいかに引き出すことができるかが重要となるのです。

 しかし大麻座商店街でのフィールドワークはそうした社会調査の知識と技法を学ぶものとは違っていました。それは、大麻座商店街に通い、なるべく多くの人に出会い、交流することで、学生自身がこれはと思える人を発見し、その方の生き方について話を聞かせていただくということを目指すというものでした。

 学生に学んでほしいと思ったことは以下のようなものでした。なによりもできるだけ多くの人と出会い交流すること。その中で人とのつながりを形成すること。できればそのつながりから、協力・協働して何かを行うこと。そのことを通して、できれば、支え・支えられる、助け・助けられる関係性を築づく経験をすること。そうした出会いと交流によって、自分にとって関心・興味のもてること、やりがいの感じられることを発見すること。さらにそれが経済的活動や仕事に結びつくようになればなと思っていたのです。

 そうした自分たちの都合と頭の中で勝手に妄想したような授業活動を大麻座商店街で果たして受け入れてくれたのでしょうか。結論から言えば、大麻座商店街では、そうした海のものとも山のものともつかない私たちの授業活動を、私たちが期待していた以上の形で受け入れていただきました。そのひとつの大きな要因は、私たちのような大学での授業と商店街との間を取り持つ役割を果たしてもらえる人と場が、大麻座商店街には存在していたことです。

 江別港というカフェ・食堂の存在がそれです。経営している方は橋本正彦さんです。橋本さんは、前回紹介した『創造商店街』の執筆者のひとりです。そして、江別港は、大学生と地域社会を結ぶことを企図して橋本さんが設立したカフェ・食堂だったのです。橋本さんが代表を務める江別港があったことで商店街を舞台とする私たちの授業活動は実現することができたのでした。

 まず専門ゼミを江別港で開くことから始めました。そこでは商店街を舞台に自分たちがどのような活動ならできるのかについて話し合うことから出発したのです。その結果、手始めとして、大麻座商店街にはどのようなお店があり、地域全体が高齢化する中でそれぞれのお店が地域とどのようなつながりをもっているのかを知るために商店主の方々に話を聞こうということになりました。

 そして、学生たちは、聞かせていただいた話をもとにお店紹介のチラシを作成したのです。内容は、お店の成り立ち、地域とのつながり、そして商店主の方の地域への思いです。そのチラシでお店のことを大麻地区の住民の人たちによく知ってもらおうとしたのです。作成したチラシは、学生の地域活動を支援する江別市の補助を受け、新聞の折り込みによって大麻地区に配布しました。

 次に、商店主の方の協力を得て、商店を舞台に学生が地域の方々と交流するプロジェクトの実施を試みました。商店街のお店と商品を紹介する写真展、目利きの八百屋さんのご主人によるおいしい果物を見分ける講座、そして障がいをもっている方の就労支援などを行っている施設でのクリスマス会などを実施させていただくことができたのです。毎月最終の土曜日に商店街で実施されてきている「ブックストリート」というイベントにも参加させていただきました。

 この授業を体験する以前に大麻座商店街に来たことのある学生はほぼいませんでした。学生たちにとって商店街はある意味で異文化の生活世界だったのです。彼ら彼女らは、商店主の方々がどのような思いで商売をしているのか、お客さんとどのような関係性を築いてきているのか、そして商店同士でどのような、支え支えられる、助け助けられる、そして協力・協働する関係性を形成しているのかなどなどについて、体験を通して学ぶことができたのではないかと思います。

 ある商店主の方は、自分のお店や商店街のことだけでなく、大麻地区全体の地域社会の今後の活性化の計画を構想していました。学生たちはそうした方がおられたことに驚いて報告していたことを思い出します。また商店街のお店同士のつながりと協力・協働しての息の長いイベントの実行力にも学生たちは何か感じるものがあったのではないかと思います。短い時期ではありましたがそうした貴重な体験をさせていただいた大麻座商店街に、今感謝の念でいっぱいです。

 

     竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン