シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

芸術家のタマゴを育てる町―アラプール(2)

 「ソレイス」は、またアラプールの町づくりにもかかわっていました。そのこともあって、アラプールでは、住民たちによる自主的な活動、とくに文化・芸術・教育に関する諸活動が大きく花開いています。例えば、1993年には小学校でゲール語教育が開始されています。ゲール語は、スコットランド少数民族の言語です。

 2005年に、そのゲール語スコットランド政府は英語と並ぶ公用語とする法律を定めます。アラプールの小学校におけるゲール語教育の開始はそれにかなり先んじていたのです。開始当初は11名のクラスだったそうです。それが、2006年には60名のクラスにまで大きくなっていったとのことでした。

 1999年には多目的なコミュニティ・ホールが建設されています。そして、その運営は住民たちで編成されたボランティア委員会が担っているのです。その活動は多岐にわたり、さまざまな伝統音楽、ゲール文化・ゲールダンスなどのプログラムを企画・運営しています。コミュニティ・ホールは軽食や喫茶の提供もしています。

 また住民たちの製作物の販売もしています。ちなみに「ソレイス」に所属している芸術家たちの作品も展示・販売していました。さらに地域住民たちの集会や会議のための部屋もあり、「ホール」は文字通り住民たちの交流と交際、そして集会のための施設として、彼ら、彼女らの自主的な活動拠点としての役割を果たしているのです。

 コミュニティ・ホールが建設された同じ年に、アラプールのハイスクールに各種の教育的教室を提供するマックフェイルセンターと劇場が併設されています。これらの二つの施設もまた住民たちのボランティア委員会によって運営されています。教室に関して言えば、絵画や音楽などの芸術的教室が代表的なものです。「センター」にはそれらの教室で製作された作品も展示されています。また若者たちの職業訓練を目的としたコンピューター教室も定期的に提供されているとのことでした。

 劇場では、これも住民たちの手による文化・演劇・音楽にかかわるさまざまな催しが開催されています。私たちが訪問したときには、日ごろの練習成果を発表する子どもたちの音楽発表会が開かれていました。スコットランドの伝統楽器であるバグ・パイプの演奏をはじめ、ピアノやバイオリンなどの演奏が、さまざまな年齢の子どもたちによって披露されていたのです。そして、200人を超える聴衆の住民たちが、たとえそれらの演奏がどんなに拙いものであっても盛大な拍手をおくっていました。アラプールの子どもたちは地域の大人たちから見守られながら育っていることを実感することができました。

 アラプールは、もともと住民たちが自分たちの自主的活動によってコミュニティの維持を支えてきたところです。その活動は多岐にわたっています。これまで紹介してきた活動以外にも、自然環境保護、コミュニティ所有のプールの維持・管理、そして観光客の受け入れ活動などがあります。そこに移住してきた芸術家たちの活動が加わって住民たちの自主的活動の幅が大きく、広くなっていったのです。

 現在、アラプールは豊かな自然に恵まれ、文化と芸術の香り漂う個性的な町として「都市住民」たちのあこがれの町になっています。それを示すように、単にスコットランドやイギリスだけでなく、世界中からの移住者がすんでいるのです。移住者たちの家の屋根には出身国の国旗が掲げられており、国際色豊かです。またそうした生活環境に価値を見出した環境に負荷を与えない企業も進出してきているそうです。アラプール、それは地域住民たちの自発的な活動が花開き、活気と人々の交流にみちた魅力的な地域社会なのです。「ソレイス」は今やその自発的なコミュニティ活動のネットワークの中心に位置しているのです。

 蛇足ですが、「ソレイス」の代表のバーバラさんの夫は陶芸家です。日常生活では、陶芸の仕事だけでなく、漁師の仕事もしているそうです。その彼に次のような質問をされたことが印象深く記憶に残っています。「あなたたちは毎日忙しさに追われるような都市生活をしていて満足していますか」と。

 

          竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン