シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

社会開発と経済開発

 ハイランドの地域再生と発展の任務をもっているHIEは、中心都市から遠く離れた地域に住んでいても中心地に住んでいる人と同じ生活福祉を提供するという人口維持政策をどのように実現しようとしているのでしょうか。住民が必要とする社会的支援とサービスを、誰がどのような形で提供させようとしているのでしょうか。地域住民の方々が地域住民の人たちのために、ビジネスを通してそれらを提供するような社会システムづくりをするというのが、HIEの社会開発戦略です。

 ここで再びHIEの社会開発の責任者だったヒギンズさんの話に耳を傾けてみたいと思います。ヒギンズさんは言います。遠隔・僻遠の地の地域住民が生活をおくる上で必要とする社会的支援とサービスは、「行政が提供しようとすればあまりにも高くつき、私企業が提供するには充分な利益が見込めないために提供しようとは思わないような」性格をもっているのですと。

 だとすると、地域住民の方々自身が住民の人たちの生活の必要を支えるために行うビジネスとはどのようなものなのでしょうか。ヒギンズさんの答えは、このビジネスは社会的・公共的性格であることが第一の目的です。決して大きな経済的利益を得ることを目的としていません。ただ持続可能な形で社会的支援とサービスを提供するために、働いてくれる人の生活を支え、経営をつづけることができる利益が得られればよいのです、というものでした。地域の人たちがそうしたビジネスを起業し、経営をつづけていくことができるようにするのが、HIEの役割なのだとも話してくれました。

 どうしたらそのようなビジネスは実現可能となるのでしょうか。過疎化していく地域社会の人々の生活を支えるような社会貢献型のビジネスを行おうとする「人」やグループに対して財政的なものを含めた支援を徹底的に行うというのが、HIEの採った条件不利地域における社会貢献型・生活福祉型ビジネス実現のための戦術でした。HIEが重視したのは、地域の人々の生活を支えるという社会貢献・生活福祉事業のための志とそれを具体化するアイデアをもっている人を発見し、応援することでした。

 そういうHIEの期待に応ええる人やグループ(3人以上)と認められれば、起業のための資金、施設、設備および(多くの場合その事業が経済的に自立し、順調な経営軌道にのるまでの人件費を含む)経営費の一部を助成するというのです。HIEがとくに重視したのは、事業活動が行われる地域コミュニティに事業継続の基礎的条件となる土地、施設、設備などが蓄積されていくようにすることでした。

 そのためそれらの資産の所有は、起業し事業を始めた個人やグループにではなく、事業活動が行われている地域コミュニティとしているのです。ときには必要であれば、地域コミュニティ全体の土地を地域コミュニティが買い上げ自分たちの所有資産とすることを奨励し、その動きを支援しているのです。それはランド・バイアウトと呼ばれている政策です。

 社会貢献型・生活福祉型といってもビジネスとして成功すること、経営的に自立することを目指しているのですから、当然事業を通して経済的利益をあげられるようになることが求められています。その経済的どのようにするのかという点にHIEの政策のユニークさがあります。この事業でえられた利益は決して個人に分配されてはいけないのです。個人に分配するのではなく、別の事業を立ち上げる資金となるよう地域コミュニティに蓄積することを課しているのです。これも当然ですが事業を行っている人たちには、働き(基本的には労働時間)に応じて賃金が支払われます。

 ここでひとつの疑問がわいてきます。というのも、経済学の教科書によれば、人間というものは「自己の利益の極大化」のために経済活動をする動物だと書かれているからです。しかも、そうした「経済人」たちは、お互いに競い合って自分の利益をえるようにしなければならないというのです。さらに経済政策としては、そうした「経済人」の利己心に働きかける政策こそ「よい」政策であるとも言われてきているのです。

 そういう本性をもっている人間が、果たして自分が起業した事業にかかわる資産や利益が自分のものとならないような事業にのりだすものだろうか、はなはだ疑問に感じないわけにはいかなかったのです。しかしHIEの方によればこうした事業を実行し、成功している多くの地域があるというのです。それらはどのようなものか、自分たちの目で確かめずにはいられないという思いで居ても立っても居られませんでした。

 

          竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン