シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

地域住民みんなが所有者・経営者の島ーエッグ島(1)

 エッグ島はHIEの地域づくり戦略どのようなものかを最も具体的に示してくれる島です。ハイランドのマレーグという港町からフェリーで約1時間30分の沖合にある小さな島です。北海道で言えば、羽幌港からフェリーで行く焼尻・天売島といったところです。大きさは、縦10キロ、横7キロメートルで、形が文字通りたまご型の島なのです。訪問したときの人口は約80人でした。

 イギリスはかつて貴族でもある大土地所有者が支配する国でしたが、その例にもれず、エッグ島もひとりの地主が島全体の土地を所有していました。そのため島で農業をしたり、商売をしたりしていた人たちは、すべて地主の許可をえなければならなかったのです。その地主はとてもワンマンで、気に入らないとすぐに貸していた土地を取り上げたり、島での営業をさせなかったりしていたというのです。また住むための家の土地をなかなか貸してくれなかったといいます。多くの島民はキャラバンでの生活を余儀なくされていたそうです。

 エッグ島の人たちは、農業、漁業、そして観光客へおみやげ品を売るなどして生計をたてていました。またお互い支え合い助け合うコミュニティを形成していました。それでも地主の恣意的な島の経営のため、島を出ざるをえない人が多くいたそうです。エッグ島の人口はコミュニティ存続の危機の水準にまで減少していったそうです。

 そうした中、1991年に、エッグ島の所有権を自分たちのものとするため買取しようとする住民たちの運動が起きたのです。その運動を進めるため、「エッグ島トラスト」という組織も立ちあげられました。エッグ島の大人たちすべてが構成員となっている住民自治会も住民投票を行いその運動を支持・支援することを決めたのです。この運動は文字通り島ぐるみの運動となっていったのです。

 この運動のリーダー的役割を担ったのが、ご自身が移住者のひとりであったマギー・フィフェさんという女性です。マギーさんは、イングランド出身の工芸作家の方です。エッグ島に移住するまでイギリス中を放浪していたそうです。エッグ島には夫と子どもたちと移り住んでいました。1981のことだそうです。

 移住したとき、それまで遺棄されていたコテージ付きの小作地を借りることができたそうです。それは彼女と彼女の家族にとって非常に 「幸運」なことであったといいます。そうした新住民だったマギーさんが島の所有権を住民のものとしようとする運動のリーダーになれたのでしょうか。結論から言えば、マギーさんはエッグ島以外の社会での生活経験を有していた新住民だったからです。旧住民の人たちは地主に、それがどんなに理不尽な人であったとしても、頭があがらなかったのです。

 小さいとはいえ島全体の土地を買い取ろうとするのですから当然住民の人たちだけではどうしようもありません。マギーさんたちはエッグ島を買い取るための資金集めのためイギリス社会に助けを求める活動をしたのです。今日のクラウドファンディング募集のような活動です。同時に島内でも住民たち自身が日常生活で支え合い、助け合うとともにともに生活をエンジョイしようとする活動も始めたのです。

 マギーさんたちは島のお年寄りの人たちのために昼食クラブを立ち上げ、また移動のためのミニバスを走らせたのです。エッグ島の文化的伝統と言語を継承していくためのさまざまな活動も組織しました。その中には、ゲーリック語による演劇クラブを立ち上げることもしていたのです。こうしたもろもろの活動はマギーさんをはじめとしてエッグ島の新来住者の人たちの活躍のたまものでした。

 これらの活動は、とくにメディアとの関係に大きな変化をもたらしたといいます。マギーさんたちの島の所有権を買い取るという運動が島民の声を代表するものとして社会から受け入れられていったのです。この運動は単にスコットランドだけでなく、イギリス中からの支持・支援を受けることができたそうです。管轄の行政府、スコットランド・ワイルド・トラスト、そしてHIEからはアドバイスと財政的支援を受けることできました。マスコミも好意的・支援的に取り上げ報道してくれたといいます。1997年には、イギリス中から1.5百万ポンドの寄付金が寄せられ、同年6月ついに運動が実を結び、住民たちがエッグ島の所有者となったのです。

 ここから、いよいよ、住民たち全員が参加する島の経営と地域社会づくりが行われていくことになったのです。エッグ島の住民全員が島の所有者であり、経営者となったのです。その中核となる組織が、「エッグ島・ヘリテージ・トラスト」です。この組織は8名のディレクターによって運営されています。その構成は、管轄の行政府であるハイランド・カウンシルから2名、スコットランド・ワイルド・トラストから2名、そしてエッグ島自治会から4名が任命されています。代表はスコットランド・ワイルド・トラストの人で、書記がマギーさんとなっていました。

 ただし、エッグ島経営の基本方針は島の大人たち全員が参加する自治会の定例会で決めているということでした。島の大人たちは月一度集まり、話し合い、島の経営をどうするかについて決定しているのです。エッグ島は文字通り住民たちによる自治の島なのです。

 

          竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン