シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

人生の旅人たちの出会いと交流の地(2)

 竹富島で出会った方々は、それまで私が観光客ということで思い浮かべていた人とは全く違っていました。前回紹介した高橋さんがそうでした。その中に、黒島の牛祭りのときに決まって出会う人もいました。八重山地方の黒島は石垣牛の産地です。黒島では、2月の終わりの週に恒例の牛祭りが開催されます。その方は、黒島の牛祭りに毎年参加するため、竹富島の、私も宿泊している民宿に宿泊しているのです。私がすごいと思ったのは、その方は、北海道の北見市で開催される酷寒の中での焼肉祭りにも毎年参加しているということでした。その方の話を初めて聞いたとき、日本の南と北の地域で同時期に開催される祭りに、毎年かかさず両方参加しつづけている人がいることに驚いたことを覚えています。

 私が定宿にしている民宿の宿泊者ではなく別の宿の宿泊者の方なのですが、毎週週末になると竹富島にやってくる方がいるという話を聞きました。その方は東京に住んでいる方だということでした。東京から毎週末に竹富島に通うのにどれくらいの費用がかかるのだろうか。なぜ毎週末に竹富島に通っているのだろうか。東京ではどのような労働をし、生活をしているのだろうか。できればその方に会ってぜひ話を聞かせていただきかったのですが、その願いはいまだ実現していません。

 そうした話は、民宿の中でのユンタクという宿泊者同士でのおしゃべりをしながらの交流会の中ででてくるのです。八重山地方の旅の魅力はこのユンタクにあるのではないかと感じました。お互い知らないもの同士が、たまたま同じ宿に泊まった縁で、楽しいひと時を過ごし、同時に旅の情報交換をすることができるのです。私が宿泊している民宿にはファンクラブが存在しています。同じ民宿に泊まったという縁による交流は、竹富島だけでなく、日常の生活に戻ったあとにもつづけることができるのです。

 なんということでしょう。私の民宿では、そのファンクラブの関西支部と東京支部があるのだそうです。そこでは、地元で定期的な会合がもたれ、同じ民宿に泊まったもの同士の交流が継続されているのです。私は2~3月の時期に竹富島で宿泊するので、北海道からの旅人にもよく出会います。北海道では雪に閉ざされている時期ですので、この時期でも北海道の夏と同じくらいの気候を体験できる八重山地方は、北海道からの旅人にとっては楽園に感じるからでしょうか。ただ残念なことに、私の民宿では、ファンクラブの北海道支部はまだありません。北海道は広いので日常に戻ったあとも交流をつづけるのが難しいのかもしれません。

 ここまで簡単に紹介してきたことからも分かるように、八重山地方は、旅人たちの素敵な出会いと交流の場となっているのです。初めて八重山地方を訪れた旅人たちの多くも、そうした出会いと交流を楽しむことができているのではないでしょうか。そしてその楽しさを経験し、身体に刻み付けられることで八重山地方のファンになり、リピーターとなっていくのではないかと感じました。それほどユンタク文化は多くの人たちにとって魅力があるのだと思います。とくに、客観的にはどれほど多くの人がいるような生活空間であっても、現代社会では、それらの人たちの関係性が相互無関心となっているため否応なしに孤独を感じてしまうような生活環境の中で暮らしていると、ユンタクの体験は非常に貴重なのだと思います。

 そうしたこともあるのでしょう、私がはじめてフィールドワークのために訪れたときには、観光客だけでなく、自分の人生を探すための旅に八重山地方を訪れる旅人たちが大挙して押し寄せていました。その数があまりにも多かったために、八重山地方の社会が今後どのようになっていくのだろうかという危機感をもまじえた議論も沸騰していたのです。

 

     竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン