シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

地域づくりが生みだす生活世界

 前回宮沢さんの自身の生涯を通しての仏国土建設に関する主張とそのための自身の活動の試みを、芸術論的人生論および「自分たちの手で創る」共に生きる生活世界論と特徴づけました。では現代社会における社会づくりの動きの中で見ると、そうした宮沢さんの仏国土建設論の特徴と共通する特徴を示している社会づくりの動きとしてはどのような動きが存在しているのでしょうか。社会学のフィールドワークの目で現代社会の動きを見ようとするとき、その問いこそ社会学が探究していかなければならない問いであると感じます。

 では、すべての人が芸術論的人生をおくることができるような、「自分たちの手で創る」共に生きる生活世界が実現しているような社会とはどのような社会なのでしょうか。そうした社会づくりの動きをフィールドワークするためにも、再度仏国土建設論を踏まえた宮沢さんの社会づくりに関するメッセージとはどのようなものであったのかについて確認しておきたいと思います。西田さんによれば、それは次のようなメッセージでした。

 すなわち、宮沢さんのそのメッセージとは、「この世には役立たずの人間はいません」。人はそれぞれ自分の活躍できるもち場があり、「それぞれ自分にあった役割・役目があります」ということなのです。同じく西田さんによれば、そのそれぞれ自分にあった役割・役目を果たしていくことで、人は、「『個々の特性を発揮』して、星たちのように、一人ひとりが自分らしく輝きながら、星が星座をつくり、北極星を中心に空をめぐるように、人との絆を大切に連帯感を持ちながら、社会を生きて行く」ことができるようになるのです。

 この宮沢さんのメッセージを受け取り、現代社会における社会づくりの動きをみると、持続可能な地域づくりの動きの中に、すべての人が「一人ひとりが自分らしく輝きながら、北極星を中心に空をめぐるよう」な連帯感のある社会づくりとなっている事例があるように感じます。

 これまでの地域づくりのフィールドワークの中で感じてきたことと西田さんが紹介してくれている宮沢さんのメッセージとがおおよそ重なっていることに驚いています。これまでさまざまな地域づくりのフィールドワークをさせていただいてきましたが、それらの地域づくりが創りあげている世界とは以下のようなものでした。

 まず地域づくりに参加されているひとり一人の自主性と主体性が大事にされ、尊重されています。また参加しているひとり一人が活躍し、輝くことのできる場が存在しています。もし、誰か、自分が活躍し、輝くことのできる場が見つからない場合は、仲間たちが寄り添い、その人が自分の思いで見つかるように支えつづけてくれるのです。

 ではそうした連帯感を生みだす中心となっている北極星とは、これまでフィールドワークをしてきた地域づくりにおいてはどのようなものだったのでしょうか。それは個人的な感想かもしれませんが、自分たちの地域を元気にしたい、すべての地域の人たちが自分の活躍と居場所をもち生き生きと生活していることに喜びを感じるという思いが共有化され、地域の空気・文化となって存在しているというものだったのではないかと感じてきました。

 ところで、そしてそれは西田さんも指摘していないのですが、宮沢さんは星座の中心に位置している北極星をどのようなものとして捉えていたのでしょうか。そのことが気にかかります。少なくとも、宮沢さんは、北極星をオーケストラにおける優秀な指揮者とか、地域づくりにおける強力な指導者またはリーダーのような、他の星を従え、調和と秩序を維持する権威者または一段と高みにある存在というようには考えてはいなかったのではないかと思います。

 宮沢さんは、これからの自分の生き方について試行錯誤の模索を書き記していたいわゆる「雨ニモマケズ手帳」の中でこれからの生き方として「日課を定め/法を先とし……」との思いを綴っていました。

 そのことを踏まえると、宮沢さんにとっての北極星とは、宇宙全体の秩序を構成している宇宙意思である「法」だったのではないかと考えます。そしてその「法」とは、支配者というのではなく、また指揮者または指導者というのでもなく、(温かいまなざしで)すべての存在に寄り添い、見守る支持者(支える者)という存在と考えていたように感じます。

 宮沢さん自身、「ポラーノの広場」におけるファゼーロさんたちとの関係を、ファゼーロさんたちの産業組合づくりの支持者、すなわちファゼーロさんたちの産業組合づくりの試みを暖かく、見守り、寄り添い、求められれば助言を惜しまない支持者と位置づけていたのではないでしょうか。

 

                  竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン