シニアノマドのフィールドノート

生き生きと生きている人を訪ねる旅日記です

人生リセットの地

 前回の記事で参照した下川さんは、人生の旅の一環として、八重山地方を含む沖縄に押し寄せていた人たちについても取材していました。そしてその取材を通して、「彼らが沖縄に求めたもの。それはかなりの部分で、バンコクでの外こもり組とダブってくる気がする」ことを感じとっていました。しかし、同時に違いも感じたようです。その違いを一言で表せば、タイの場合は、「日本社会から降りる」ということなのに対し、沖縄の場合は、「人生のリセット」だといいます。下川さん自身のことばを挙げれば、「沖縄移住を人生をリセットするためのひと区切りのように位置づける」。「新しい人生を再スタートさせるための長い夏休み」です。ただし、抱えている事情に関しては、沖縄組の場合、彼女、「彼らが直面していたものは、外こもり組以上に深刻でもあった」というのです。

 私も、竹富島で、旅で竹富島に滞在しているとき、突然宿泊の予定が過ぎても八重山地方に滞在しつづけたくなったということで、旅先から勤めていた会社に電話し、退社したという女性の方に出会いました。突然の、しかも衝動的なその行動を、そのときはとても理解できませんでした。何か当てがあるわけでもなく退社までしてこれからどうするのだろうと、他人事ながら心配になったことを覚えています。竹富島のアトリエでシーサー作家をしている方が、「このごろ竹富島の観光客の中に明らかに精神的に参っていると思われる人をよく見かけるようになった」と話してくれたことが思い出されます。

 八重山地方の社会の空気がそうした気持ちの人たちを引き付けているということに非常に興味をもつようになりました。しかも、八重山地方に来たことをキッカケとして人生をリセットしようとする気持ちにさせ、そうした人たちの人生再生を後押ししているものとは何か、ぜひ知りたいという気持ちが大きくなって行きました。

 ただ個人的には、とくに若い人たちにとっては、八重山地方の社会に移住して暮らすということにはかなり高いハードルがあるのではないかと感じてきました。まず安定した仕事を得ることが大変ではないかと思います。観光化が進んでいますのでパートや非正規的仕事であれば比較的見つけやすいとは思いますが、いわゆる正規社員的仕事にはなかなか就くことは難しいように思えます。また、八重山地方は、まだまだ地域コミュニティが維持されており、地域コミュニティを基盤とした年中行事も多く継承されています。観光客としてそうした行事や文化を楽しむにはいいところですが、他方でよそものがそうした地域社会に溶け込んでいくことは大きな壁ともなるのではないでしょうか。さらに移住を求めて来る人たちが急増していたこともあって、生活の基礎となる住居を得ることもそれほど容易いことではないのではないとも思っていました。

 そうしたこともあり、確かに多くの人たちは短期で八重山地方を後にしていっていました。しかし、現実は、実際に移住していた方々も多くいました。しかも、そうした方々の中には地域コミュニティに溶け込むだけでなく、地域コミュニティや八重山社会を支え、元気にする(労働ではなく)仕事や活動をされている人も少なくありませんでした。当然ですが、そうした方々はどのような人で、どのようなキッカケと経緯でそのような活動をされるようになっていったのか、ぜひ話を聞きたいとの思いが強くなって行きました。

 

     竹富島・白くまシーサー・ジャンのいちファン